目次
- 鼎談(映像):アーティスト兼スタッフから見た、急な坂スタジオ
- 鼎談(文):急な坂でこっそり行われていた、子ども×アーティスト企画
- 3人の急な坂スタジオでの活動
1. 鼎談(映像):アーティスト兼スタッフから見た、急な坂スタジオ
急な坂スタジオのスタッフとして受付に座っている人の中には、普段はアーティストとして活動している人たちがいます。稽古場の利用者と同じ目線に立てるからこそ、彼らのスタッフとしての気づきや意見は、稽古場をより良くするためにとても重要です。
2016年8月某日、アーティストであり急な坂スタッフでもあった、酒井さん、佐々さん、西井さんの3人に急な坂スタジオの受付にお集りいただき、急な坂スタジオという場所について、アーティスト・スタッフの2つの視点からお話を伺いました。
2. 鼎談(文):急な坂でこっそり行われていた、子ども×アーティスト企画
酒井さん、佐々さん、西井さんには、もう一つ共通点があります。それは、急な坂スタジオで毎年行っている「子どもアドベンチャー(※)」という、子どもを対象としたワークショップに関わってもらったことです。
今回の鼎談では、こっそり行われていたこの企画についても3人にお話いただきました。
—急な坂スタジオでは「子どもアドベンチャー」でのワークショップを2008年から毎年行っています。2012年までは西井さんが主宰されている“もび”にお願いし、2012年には酒井さんにもダンサーとしてご協力いただきました。
西井:大学に入ったときから、「子どもたちと何かやりたい!」と周りに言い続けていました。大学の卒業制作展で学内の美術館を使って、子ども向けの音楽劇を発表したことが繋がり、“もび”として子ども向けのワークショップに声を掛けてもらえるようになりました。そこから更に繋がって、急な坂の「子どもアドベンチャー」に声を掛けていただきました。
—西井さんの活動にとって“もび”とは、どういうものですか?
西井:自分の中でワークショップというものに抵抗があって、子ども向けの企画をするときに、ハウツーみたいなことは向いてないというか、やりたくない!と思っていました。子どもたちに音楽家やダンサーたちのパフォーマンスと出会いながら、遊びの延長の中で何か発してほしいという、贅沢なことをやりたくて“もび”の活動は始まったと思います。今もこの精神は変わらないです。
—「子どもアドベンチャー」で印象に残っている子とか出来事とかありますが?
西井:2012年に中学生と急な坂のホールでひとつの作品を作ったときに、東日本大震災が起こったときに何をしていた?という話を、とつとつと皆がし始めたことがあって、印象に残っています。こちらから聞いた訳でも作品のコンセプトでもなかったんだけど、「○○のCD発売前日で、棚ががしゃんと倒れて・・・」みたいな言葉を聞いたとき、時間をかけて、ちゃんと一緒に何かを作るってことで出て来たのかなって思いました。
酒井:私はこのとき、中学生とやるのが初めてでした。彼らは子どもでもなく大人でもないっていう一番微妙な年頃で、もっと低学年だとワーって盛り上がって成立することがあるけど、こちらがちゃんと大人になって指示するということを差し挟んだ方が子どもたちのモチベーションがあがるなと、やりながら感じました。「あなたにはこれがあってるんじゃない?」「これ良いんじゃない?」と伝えた瞬間が中学生の場合は一番生き生きしていて、その瞬間が面白かった。もしかしたら、“もび”の基本のテイストとは違ったのかもだけど・・・。
西井:このときは、なんで中学生を対象にしたかというと、もうちょっと長いスパンで地道に積み上げ、作品を構築することができる年齢の人たちと一緒にやってみたいねってなったの。だから、酒井さんには有り難い立ち位置でいてもらえたなって思っています。
酒井:テンションだけで作ってなくて、中学生特有の大人と子どもの狭間の危うさみたいなものが感じられて、最後の発表は夢を見ているみたいだった。
子どもアドベンチャー「つくるってどんなこと?」
—佐々さんには2015年と2016年の「子どもアドベンチャー」をお願いしました。それ以前も、急な坂のスタッフとして記録撮影に入っていただきました。2年間実際にやってみてどうでしたか?
佐々:いや、もう戦争みたいな感じですよね(笑)
西井:分かる!(笑)どんなことやったの?
佐々:2015年は「生まれてから死ぬまでをやってみる」っていう、自分たちが死んだら、どんな幽霊になるのか?ということをやりました。1日目は、どこで死んだとか、どんな物を身につけている幽霊か、どうやって人を脅かすのかを、それぞれ考えてもらって、それをみんなの前で発表して、最終的には心霊動画を作りました。2日目はその心霊動画の上映会と、お化け屋敷を作って、お父さんやお母さんと僕が一緒にまわって、懐中電灯で照らすと子どもたちが「○○で死んだ幽霊です。」みたいなことを言うの。
酒井・西井:(笑)
佐々:その次の年は、ある伝説の戦いに負けた人になって、身につけているものや設定を考えてもらって、その人になりきってインタビューを受けるということをやりました。コミュニティルームに撮影機材を持ちこんで、一人ずつ部屋によんで僕がインタビューすると「私は曹操です。負けました。悔しいです。」みたいなことを作った設定を元に話してもらうの。2日目は、その負けた人たちのインタビュー映像を僕が編集して上映会をしました。
西井:面白そう!
佐々:作ったり、撮られて演じたり、それを見られたり、見たりするという色んなアプローチを体験してもらったんだけど、どれか一つが重要ってことでも、見せることまでが大事ってことでもなくて・・・。そういう色んなアプローチをすることって、実は普段作品作っているときは、あんまりできなくて、僕にとってはとてもチャレンジングでリッチな時間でした。
—佐々さんが、面白かった瞬間ってどんな時ですか?
佐々:普段、見るっていう体験を提供する作品を作ることが多いので、見てそれをどうやって解釈してくかっていう、その作業の比重が多いのですが、今回はそれぞれが与えられたテーマに最終的には自分の身体で引き受けて、立ち向かわなければいけなくて、無理難題みたいなものを切り抜ける瞬間が見えると僕は気持ちいい!って感じました。
子どもアドベンチャー2016「伝説の戦い」を作ろう
撮影|須藤崇規
「子どもアドベンチャー」での毎年の課題は、どうしたら子どもたちに急な坂スタジオという場所を面白い!と思って帰ってもらえるか?ということです。この場所のことを知り尽くしている3人だったからこそ、ハウツーではない面白いチャレンジができたと感じています。
酒井さん、佐々さん、西井さん、お話聞かせていただき、ありがとうございました!
※「子どもアドベンチャー」とは?
横浜市教育委員会が小中学生を対象に、市内の企業やNPO法人、大学、公的機関などと協力し、働くことの体験や、人との出会い・交流をテーマに行う体験事業です。急な坂スタジオでは毎年、稽古場を使うアーティストや作品創作を支えるその周りの人を中心に様々なワークショップを行っています。
【これまでご一緒したアーティスト】
- 2008年〜2012年 もび(西井夕紀子(音楽家)ほか)
- 2013年 杉原邦生(演出家)
- 2014年 渡辺美帆子(演出家)
- 2015年〜2016年 佐々瞬(現代美術作家)
3. 3人の急な坂スタジオでの活動
酒井幸菜
- 2008年 坂あがりスカラシップ2008対象公演 岩渕貞太振付・演出『タタタ』 出演
- 2012年 酒井幸菜新作ダンス公演「わたしたちは生きて、塵」(共催・制作:急な坂スタジオ) 構成・振付・出演
- 2012年 子どもアドベンチャー2012 ダンサー
- 2013年 白神ももこ×酒井幸菜 「Stick & uS !!」-私たちと棒-(NPO法人STスポット横浜・急な坂スタジオ主催) 振付・出演
- 2013年 横浜市芸術文化教育プラットフォーム事業 横浜市立二つ橋高等特別支援学校 WS講師
- 2014年 酒井幸菜・藤田貴大 「Layer/Angle/Composition」(主催:急な坂スタジオ)
佐々瞬
- 2013年 日韓共同製作プロジェクト『つれなくも秋の風』(主催:急な坂スタジオ、ほか) 宣伝美術
- 2014年 急な坂スタジオ×マームとジプシー『歩行と移動』(主催:急な坂スタジオ、2014年東アジア文化都市実行委員会) 撮影
- 2015年 子どもアドベンチャー2015「生まれてから死ぬまでをやってみる」 WS講師
- 2016年 子どもアドベンチャー2016「伝説の戦い」を作ろう WS講師
西井夕紀子
- 2008年〜2012年 子どもアドベンチャー WS講師
- 2012年 酒井幸菜新作ダンス公演「わたしたちは生きて、塵」(急な坂スタジオ共催・制作) 音楽
- 2012年 横浜市中央図書館×急な坂スタジオ「もび」の『オーケスト・ライブラリー ~本にみみをすませよう』パフォーマンス(主催:急な坂スタジオ) 音楽
- 2012年 坂あがりスカラシップ2012対象公演 モモンガ・コンプレックス『秘密も、うろ覚え。』 音楽