いきなり弱音で申し訳ないのですが、人材育成について書くことは本当に難しいです。どこの会社、業界でも重要な「人材育成」ですが、常にどうしたらいいのだろう?と、考え・悩み続けています。
急な坂にとって、人材は大きく2つに分けられます。アーティストとそれ以外の人たち。アーティストにおける人材育成は「前菜」や「メイン」をお読みいただければ幸いです。とはいえ、育成したという実感よりも、急な坂やそのスタッフも一緒に育ってきたという気持ちが強いです。環境や機会を創り出すことで、アーティストは自ずと成長していくような気がします。では、アーティスト以外の人材育成とは、どうようにしたらいいのでしょうか?
これまでに、制作者や観客の育成事業として様々な取り組みを行ってきました。「マンスリーアートカフェ」(2006〜09年)では、定期的に舞台芸術業界への就職や、キャリアアップに関するトークを行いました。
「急な坂ゼミナール」では、思想ゼミ・企画ゼミ・技術ゼミ・作品ゼミと、複数の視点から、創造環境を支える人材の育成に向き合いました。またゼミナールの新しい形として、2015年度には「制作道場」を実施しました。
急な坂ゼミナール
こういった事業から、様々な人材が輩出されたのも事実でしょう。でもそれらの人材はこの事業がなくても、きっと舞台芸術業界を支える人物として活躍していたと思います。「育つ人は勝手に育つ」暴力的な言い方かもしれませんが、この10年で痛感していることでもあります。これは決してネガティブな感情ではありません。そもそもの考え方の問題だと思っています。育成事業と銘打った時に、
- 企画側:育ててあげます。ここにくれば育ちます。
- 参加側:育ててください。与えてくれれば育ちます。
といったイメージが強いのかもしれません。でも、実際には企画側が即戦力を求めてしまっていたり、意欲的に知識や経験を吸収したい人が来るに違いない、と思い込んでいるのかもしれません。どこの業界も同じだと思いますが、興味はあるけれどもいきなり現場には関われない、何となくきっかけが欲しい、という希望を持った人たちが参加者なのではないでしょうか。
たったひとつの企画で人が育ったり、即戦力が続々と輩出されたりなんてことは起こりません。でも、こういった企画があることで、新しい出逢いや、稽古利用ではない関わり方を急な坂としてくれる人が増えていっています。また企画をきっかけに、自分自身が舞台芸術とどうやって関わっていきたいのか再確認する人もいたはずです。そして何より私たち企画者にとっては、自分自身のこれまでの経験や知識を思い返し、反省したり、次に活かしたりするための貴重な機会となっているのです。
色とりどりの野菜を盛りつけただけのサラダが美味しいように、人材育成とは余計な手間や過剰な味付けをせずに、「素材そのものの味をどうやって活かしていくのか?」「何と組み合わせるのがいいのか?」を企画者と参加者が一緒に試行錯誤するものなのかもしれません。
制作道場
撮影|須藤崇規